Q.賃貸物件の契約更新時期が近づいてきましたが、最近の賃料相場の上昇に伴い、賃料の増額をしたいと思います。賃貸人として、賃借人の方と賃料の増額に向けた話し合いをしたいと思いますが、話し合いがまとまらない場合にはどのように対応すればよいでしょうか。
賃料(地代又は家賃)の増減は、原則として賃貸人と賃借人間の協議で決定します。
賃貸人と賃借人間の協議で決定することができない場合、賃料の増減を請求しようとする側が、原則として簡易裁判所に調停(民事調 停)の申立てをする必要があります(調停前置主義)。
上記調停が不調となった場合には、賃料の増減請求訴訟を提起することになります。
解説
賃料増減請求権の発生要件
賃料の増減請求は、原則として賃貸人と賃借人間の協議で決定しますが、協議がまとまらない場合には、裁判手続によって解決を図ることになります。
裁判手続によって賃料の増減請求が認められる要件は、地代と家賃に応じて以下のように規定されています。
地代の増減請求の要件
地代の増減請求については、借地借家法11条において以下のように規定されています。
(地代等増減請求権)
第十一条 地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2 地代等の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3 地代等の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた地代等の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。
借地借家法11条1項は、一定期間地代を増額しない旨の特約がある場合を除き、以下の3つの事情に照らして地代が不相当になったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は将来に向かって地代の増減請求をすることができると規定しています。
- 土地に対する租税その他の公課の負担の増減
- 土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動
- 近傍類似の土地の地代等との比較
家賃の増減請求の要件
家賃の増減請求については、借地借家法32条において以下のように規定されています。
(借賃増減請求権)
第三十二条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。
借地借家法32条1項も、一定期間地代を増額しない旨の特約がある場合を除き、以下の3つの事情に照らして賃料が不相当になったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は将来に向かって賃料の増減請求をすることができると規定しています。
- 土地若しくは建物に対する租税その他の公課の負担の増減
- 土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動
- 近傍同種の建物の家賃との比較
賃料の不変更の特約
賃料を減額しない旨の特約
賃料を減額しない旨の特約を規定しても、減額請求権の行使を排除することはできません(借地借家法11条1項ただし書、同法32条1項ただし書参照)。
借地借家法11条1項、同法32条1項は、強行規定であり、当事者の約定によってその適用を排除することはできないと解されるためです。
賃料を増額しない旨の特約
賃料を増額しない旨の特約が存在する場合には、その間に既定賃料が不相当になっても、増額請求権は認められません(借地借家法11条1項ただし書、同法32条1項ただし書参照)。
もっとも、賃料を増額しない旨の特約の対象期間が長期間にわたり、その間に経済的事情の激変が生じた場合には、事情変更の原則の適用によって増額請求が認められることもあり得ます。
賃料の増減請求方法
賃料の増減請求の通知方法
賃料の増減請求権は、書面に限らず、口頭でも相手方に対して意思表示をすることで足りるものと解されます。
賃貸人の賃料増額請求に賃借人が応じない場合の対応
賃貸人の賃料増額請求に対して賃借人が応じない場合、賃借人は増額を正当とする裁判が確定するまでは、自ら相当と考える賃料の額を支払えばよいことになります(借地借家法11条2項、同法32条2項)。
この場合に賃貸人が賃料の額を不服として、その受領を拒否したときは、賃借人は、当該賃料の額(自ら相当と考える賃料の額)を管轄法務局に供託すれば、債務不履行責任を免れることができます(民法494条)。
ただし、裁判により新地代・新家賃が確定した場合に不足額があるときは、賃貸人は、賃借人に対し、その不足額に年1割の割合による支払期後の利息も請求できることになります(借地借家法11条2項ただし書、32条2項ただし書)。
賃貸人が賃料減額請求を受けた場合の対応
賃貸人が賃借人から賃料の減額請求を受けた場合、賃貸人は減額を正当とする裁判が確定するまでは、自ら相当と考える賃料額の支払を賃借人に請求することができます(借地借家法11条3項、同法32条3項)。
もっとも、裁判により新賃料が確定した場合、既に支払を受けた額が正当とされた賃料額を超えるときは、賃貸人はその超過額に年1割の割合による受領時からの利息を付して返還をする必要があります(借地借家法11条3項ただし書同法32条3項ただし書)。
賃料の増減請求の解決方法
当事者間の協議・合意
賃料(地代又は家賃)の増減は、原則として賃貸人と賃借人間の協議で決定します。
調停
賃貸人、賃借人間で協議が成立しない場合には、賃料の増減額の請求をしようとする側が、原則として簡易裁判所に民事調停の申立てをする必要があります。
調停は、調停委員会が解決に必要な事実調査や当事者からの意見聴取等を実施し、当事者の合意によって紛争を自主的に解決する制度です。
訴訟
調停も不調に終わった場合には、最終的に解決を図ろうとする当事者は、賃料の増減額請求訴訟提起することになります。