不動産取引における買付証明書と違約金の扱い
はじめに
不動産購入に際して「買付証明書」を提出した後、購入を取りやめる場合、違約金が発生するのか気になる方も多いでしょう。本稿では、買付証明書の役割や関連する法律的な観点から、購入中止時の対応方法を解説します。
買付証明書とは
買付証明書は、不動産購入希望者が売主に対して購入の意思を表明する書類です。この書類には以下の情報が記載されることが一般的です。
- 購入希望価格
- 引渡し希望時期
- 代金支払い方法
任意売却の場面では、売主が買付証明書を金融機関に提示し、抵当権の抹消交渉に使用することもあります。しかし、これはあくまで購入希望を示す資料であり、正式な契約書ではありません。
買付証明書提出後のキャンセルと違約金
買付証明書を提出した後に購入を取りやめた場合、違約金が発生するかどうかは以下のポイントに左右されます。
契約の成立について
裁判所は、買付証明書や売渡承諾書が交わされた段階では、売買契約は成立していないと判断しています。この見解は以下の法的根拠に基づいています。
- 東京地裁昭和63年2月29日判決
- 東京地裁昭和57年2月17日判決
- 昭和50年1月24日国土利11号(行政通達)
これらの判断によれば、売買契約が成立するためには、以下の条件のいずれかが必要です。
- 正式な売買契約書が作成される
- 相当額の手付金が交付される
したがって、買付証明書の提出後に購入を取りやめた場合、違約金の支払い義務はありません。
申込証拠金の返還について
不動産購入時に申込証拠金を支払った場合、契約に至らなければその全額を返還してもらうのが原則です。ただし、以下の場合には注意が必要です。
- 特約がある場合: 契約書に特約が記載されている場合、一定額を返還しないケースがあります。
- 事務処理費用: 不動産業者が通常必要とする事務費用は控除される可能性があります。
なお、申込証拠金は手付金とは異なります。返還条件が異なるため、誤解しないよう注意が必要です。
弁護士に相談するメリット
買付証明書や違約金に関するトラブルを解決するためには、弁護士の助言が有効です。弁護士に相談するメリットを以下に挙げます。
- 法的根拠の明確化
複雑な法的判断を的確に整理し、依頼者に適した解決策を提示します。 - 交渉力の強化
不動産業者や売主との交渉を代理することで、依頼者の負担を軽減します。 - トラブルの迅速解決
紛争が長引くリスクを抑え、迅速な解決を目指します。
おわりに
買付証明書をめぐる問題は、不動産取引においてしばしば生じます。本稿で解説した内容を参考に、トラブルを未然に防ぐ行動を心掛けてください。困った場合は、弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。
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