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貸主・管理会社の責任範囲

はじめに

賃貸物件において、貸主(オーナー)と管理会社がどのような役割を担っているのかを明確にしておくことは、入居者(借主)にとっても非常に重要です。貸主自身が物件を管理しているケースもあれば、仲介や管理専門の不動産会社に業務を委託しているケースもあります。

しかし、家賃滞納への対応・設備の修理・クレーム処理などの具体的な場面で「貸主と管理会社のどちらが責任を負うのか」が曖昧なままだと、トラブルや対応遅延が起きやすくなります。本稿では、貸主と管理会社の責任範囲を整理し、賃貸管理における基本的な注意点を解説します。

Q&A

貸主と管理会社はどう違うのですか?

貸主は不動産を所有しているオーナーであり、賃貸借契約の当事者です。一方、管理会社は貸主から物件管理や入居者対応の一部または全部を委託されている事業者です。家賃集金・設備修理の手配・クレーム受付などの業務を行い、借主との窓口になることが多いです。

管理会社には何を頼むのか、どうやって決まるのですか?

管理会社との業務内容は、「賃貸管理委託契約」 を結ぶことで決まります。例えば、家賃回収業務やクレーム対応、退去時の立会い、リフォーム手配など、どこまでを管理会社が担当するかを具体的に定めるのが通常です。契約の範囲外のことは貸主が自分で対応するか、追加費用で依頼するなど、契約内容によって異なります。

設備不良や修理費用は貸主と管理会社のどちらが負担するのでしょうか?

物件設備の修理費用は、原則として貸主の負担となるのが一般的です。管理会社は修理手配や見積取得を代行しますが、請求先は最終的に貸主になるケースがほとんどです。ただし、管理委託契約や賃貸借契約の内容によって、ある程度の修理費用を管理会社が立て替えることもあります。

家賃滞納が発生した場合、管理会社が立て替えてくれるのでしょうか?

必ずしもそうではありません。「家賃保証会社」 と管理会社は別の存在であることが多いです。管理会社が「家賃保証サービス」を併設している場合は、滞納時に立て替えを行う仕組みを用意していることもありますが、通常の管理委託契約には必ずしも含まれません。保証会社を利用するかどうかは、借主の入居審査時に別途決定されます。

管理会社がトラブル対応を怠った場合、借主はどうすればいいですか?

借主にとって、管理会社は貸主の代理人のような役割に映りますが、実際には委託契約で決められた範囲しか対応義務がない場合もあります。管理会社が適切に動かない場合は、最終的に貸主(オーナー)へ直接連絡し、問題を報告することが重要です。それでも解決しなければ、弁護士などの専門家を介した法的措置を検討することになります。

解説

貸主(オーナー)の責任

  1. 賃貸借契約の当事者
    貸主は、賃貸借契約において借主と直接的に「物件を貸す」という義務を負い、借主から家賃を受け取る立場です。契約書に記名押印するのは貸主自身(または代理人)となります。
  2. 設備・構造の維持管理義務
    建物自体の構造上の問題や、電気・ガス・水道などの基本インフラに関する修理・交換は、貸主が負担・手配するのが原則です。賃貸借契約の義務として、借主が通常使用できる状態を確保する責任があります。
  3. 契約解除や更新の意思決定
    貸主が契約解除を希望する場合(例えば家賃滞納や物件取り壊し等)、その法的手続きや判断を行うのはあくまで貸主です。管理会社は提案や調整を行えますが、最終的な決定権は貸主にあります。

管理会社の責任

  1. 委託契約に基づく業務遂行
    管理会社は「賃貸管理委託契約」に従い、貸主から与えられた範囲の業務(家賃集金・クレーム対応・退去立会いなど)を行います。貸主と借主の間に入り、窓口として両者の調整・連絡を担うことが多いです。
  2. 善管注意義務
    管理会社も委託された管理業務を行うにあたり、善良な管理者としての注意義務 を負います。例えば、緊急トラブル(漏水・停電など)に迅速に対応しなかったり、報告を怠ったりすると、委託契約違反として貸主から損害賠償を請求される可能性があります。
  3. 管理料と業務範囲
    管理会社は家賃の数%~10%程度を「管理料」として受け取り、その対価として委託契約で定められた業務を遂行します。業務範囲外の対応(例えば大規模修繕計画や法的手続きなど)は、追加費用や別途契約を締結して対応することがあります。

よくあるトラブル事例

  1. 設備故障の放置
    借主がエアコンや給湯器の不調を管理会社に連絡したものの、適切に対処されず、故障期間が長引く。最終的に借主が貸主に直接連絡し、対応が遅れたことで借主が損害を受けた場合、管理会社の善管注意義務違反が問われるケースもある。
  2. 家賃滞納対応が不十分
    管理会社が家賃の督促を怠り、気づいた頃には滞納額が膨れあがっていた。貸主が早期介入する機会を失い、結果的に回収が難しくなる。
  3. クレーム対応の不備
    近隣住民との騒音トラブルやゴミ出しマナーの問題を、管理会社が放置したままで問題が深刻化。貸主が後から知り、住環境が悪化して退去者が続出というケース。

実務上の注意点

  1. 委託契約書の内容確認
    貸主は管理会社と結ぶ「賃貸管理委託契約」の内容をよく確認し、どこまでの範囲を依頼するのか、緊急対応の体制はどうなっているのかを明確にしておきましょう。
  2. 定期的な情報共有
    管理会社が発生する問題をすべて掌握しているわけではなく、貸主に十分報告しないケースもあります。定期的なレポートやミーティングなどの仕組みを作り、状況を共有することが望ましいです。
  3. 借主への周知
    借主に対して「困ったときは管理会社に連絡」「大規模な修理は貸主の判断が必要」など、連絡ルートを明確に案内しましょう。そうすることでトラブル時に適切な窓口に連絡がなされ、混乱を防ぎやすくなります。

弁護士に相談するメリット

  1. 契約書作成・チェック
    貸主が管理会社と結ぶ委託契約書や、借主との賃貸借契約書をリーガルチェックすることで、責任範囲の曖昧さから生じるトラブルを未然に防止できます。
  2. 紛争対応
    借主や管理会社とのトラブル(修理費用、家賃滞納、業務不履行など)が起きた場合、法的根拠を踏まえた適切な交渉や訴訟対応が可能です。
  3. 損害賠償請求・防御
    管理会社が善管注意義務を怠って貸主に損害を与えた場合、損害賠償請求を検討することもあります。また、逆に管理会社が「貸主から受けていない指示」で生じた損害を負わされるなどのケースもあり、弁護士の視点で事実を整理することで争点をはっきりさせられます。
  4. 弁護士法人長瀬総合法律事務所の強み
    当事務所(弁護士法人長瀬総合法律事務所)は、不動産管理や賃貸経営に関する各種問題を数多く扱っており、貸主・管理会社間のトラブル解決にも豊富なノウハウがあります。事前の相談から紛争解決まで、一貫してサポートが可能です。

まとめ

賃貸管理における貸主(オーナー)と管理会社の責任範囲は、「賃貸管理委託契約」でどのように定められているか で大きく左右されます。

  • 貸主(オーナー)は賃貸借契約の当事者として、物件の維持・修繕、最終的な決定権を持つ。
  • 管理会社 は貸主から委託された業務(家賃回収、クレーム対応、設備修理の手配など)を遂行し、善管注意義務を負う。
  • 修理費用は原則貸主負担、管理会社は手配や窓口対応を行うが、重大な設備問題を放置すれば管理会社の責任問題に発展する場合も。
  • 家賃保証は別途保証会社を利用することが多く、管理会社が立て替えを行うわけではない(例外はある)。

借主からすると、管理会社が貸主の代理人のように見えるかもしれませんが、実際には契約書で決められた範囲を超えて責任を負わないことも少なくありません。トラブルが長引くときは、貸主へ直接連絡し、必要に応じて専門家へ相談することが重要です。

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この記事を書いた人

⻑瀬 佑志

⻑瀬 佑志

弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。約150社の企業と顧問契約を締結し、労務管理、債権管理、情報管理、会社管理等、企業法務案件を扱っている。著書『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)、『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践しているビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)ほか。

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