賃貸契約の更新・解約時の注意点
はじめに
賃貸借契約を結んだ後も、契約期間の満了やライフスタイルの変化などにより「更新」や「解約」の手続きが発生することがあります。賃借人(借主)としては、「更新する場合に更新料が必要なのか」「解約したいときにいつまでに連絡すればいいのか」といったポイントが気になるでしょう。一方で賃貸人(貸主)側も、更新の際の手続きや解約時の部屋の状態確認など、把握しておくべき課題がたあります。
本稿では、賃貸契約の更新や解約をめぐる基本的な流れと注意点、そして実務でトラブルが起きやすい箇所を解説します。契約書の条項のほか、法律やガイドラインのポイントも踏まえながら、スムーズな更新・解約手続きを行うためのポイントをお伝えします。
Q&A
賃貸契約の更新は自動的に行われるものですか?
日本では普通借家契約の場合、契約期間が満了すると法律上は契約終了の扱いですが、貸主から正当事由のない解約通知がない限りは自動更新されるケースが一般的です。これに対して定期借家契約は、契約期間の終了とともに契約が終了し、借主からの希望があっても更新はありません(再契約という形をとる場合はあります)。
更新料は必ず支払わなければいけないのでしょうか?
更新料の支払いは契約書に明記されている場合のみ発生します。契約書に記載がないのに「更新料が必要」といわれた場合は、法的に根拠がないため支払い義務はありません。ただし契約時の説明や地域の慣習などが絡む可能性もあるため、契約書をよく確認しましょう。
解約するにはどんな手続きが必要ですか?
借主が解約したい場合、通常は契約書に定められた期間(1~2ヶ月前など)までに解約通知を送る必要があります。通知方法は書面・郵送などが定められている場合もあります。貸主が解約したい場合は、借主に対して正当事由がなければ認められず、通常は貸主からの契約解除は難しいとされています。
更新を希望しない場合、更新料は不要ですか?
借主が契約期間の満了に合わせて退去する場合、当然ながら更新料は不要です。ただし、契約書上で退去の予告期間が定められていることがあるため、期間満了直前ではなく、お早めに貸主や管理会社へ通知することが大切です。
解約後、退去時の立会いで気を付けることは何ですか?
原状回復義務の範囲を巡って揉めることがあります。部屋の傷や汚れなどが通常損耗か故意・過失によるものかで負担が変わってくるため、立会い時に写真やチェックリストで状態を確認し、後日の紛争を防ぐことがよいでしょう。
解説
賃貸借契約の更新
1. 普通借家契約と定期借家契約
- 普通借家契約
契約期間が満了しても、特段の合意解除や正当事由がなければ自動更新される。 - 定期借家契約
契約期間が満了すると契約終了。原則として更新はなく、借主側が再契約を希望しても貸主が応じる義務はない。
2. 更新料の位置づけ
更新料の有効性は、過去の裁判例で「契約の一部として明示的に合意され、社会的に不当ではない金額であれば有効」とされています。地域によっては更新料が慣習化している場合もありますが、契約書に記載されていないのであれば請求根拠は乏しいといえます。
3. 更新手続きの流れ
- 貸主・管理会社からの案内
契約期間の満了が近づくと、管理会社から更新確認の連絡があることが多いといえます。 - 更新料の支払い(ある場合)
借主が更新料を支払い、改めて契約書や更新契約書を締結。 - 新しい契約期間のスタート
従来の賃貸条件を継続する場合もあれば、賃料や管理費が変更される場合もあります。
賃貸借契約の解約
1. 借主からの解約通知
借主が退去を決めたら、契約書で定められた解約予告期間に合わせて貸主または管理会社へ書面で通知します。電話や口頭だけではトラブルの元になるため、メールや内容証明郵便など、証拠が残る形が望ましいといえます。
2. 貸主からの解約
借地借家法のもと、貸主が借主を一方的に解約するには「正当事由」が必要とされ、ハードルが高いといえます。正当事由には、貸主や親族が居住する必要性、物件の老朽化や建て替えなどが考慮されますが、それでも裁判所の判断が必要になるケースも多く、現実には難しい場面が少なくありません。
3. 解約後の退去手続き
- 設備や家具の搬出
退去時に借主の私物を撤去し、部屋を返還します。 - 部屋の状態確認・クリーニング
敷金精算の根拠になるため、汚損や破損、消耗の度合いを確かめます。 - 鍵の返却・最終精算
鍵を返却するとともに、日割り賃料や水道光熱費、敷金精算などを行います。
トラブル事例
- 更新料の告知が遅れたケース
借主が「更新料なし」と理解していたが、実は契約書に更新料の条項があり、管理会社から直前になって請求された。借主が支払えず、契約が終了しそうになった。 - 解約通知の時期で揉めたケース
借主が退去日直前に口頭で解約を伝えたが、契約書には「1ヶ月前までに書面で通知が必要」と書いてあったため、1ヶ月分の賃料を余計に請求された。 - 退去時の原状回復費用が高額
借主は通常損耗だと思っていたが、貸主がクリーニングや壁紙全面貼替などを敷金から差し引こうとして大きなトラブルに。結果的に双方が折衷案で和解した。
実務上の注意点
- 契約書や更新契約書を熟読する
更新の有無、更新料の金額、解約予告期間などはすべて契約書に明記されているのが原則です。賃貸契約書や更新契約書をよく読めば、トラブルの大半は回避できます。 - 早期のコミュニケーション
更新するか解約するか迷っている場合でも、貸主・管理会社に早めに相談すると、余計なトラブルを避けやすいといえます。特に解約の場合は退去日を柔軟に調整してもらえる可能性もあります。 - 退去時のチェックリスト活用
退去の際は、物件の隅々まで状態を確認し、写真を撮るなどして記録を残すと後で「修繕費を敷金から差し引かれたが納得できない」といったトラブルを回避できます。
弁護士に相談するメリット
- 契約内容のチェックと交渉
更新料の有効性や、解約に際して敷金が返ってこないなど、法的に争いの余地がある場合は弁護士の知見が役立ちます。契約時点から相談しておけば、リスクを見落とさずに済むでしょう。 - 円滑な問題解決
解約に伴う原状回復費用や、貸主が退去を認めてくれないといったトラブルが起きても、弁護士が間に入って交渉すれば、感情的にこじれることなく解決を図ることが期待できます。 - 訴訟対応
更新料が高額すぎる、退去費用が不当だなどの理由で裁判に発展するケースもあります。弁護士が代理人となることで、法律的主張や証拠収集をスムーズに進められます。 - 弁護士法人長瀬総合法律事務所のサポート
当事務所(弁護士法人長瀬総合法律事務所)は、賃貸借契約における更新・解約トラブルをはじめとする不動産問題に豊富な経験を有しています。貸主・借主いずれの立場でも対応可能ですので、お困りの際はお気軽にご相談ください。
まとめ
賃貸契約の更新や解約は、契約期間が来るたび、あるいはライフイベントの変化などで必ずといってよいほど発生する手続きです。
更新時のポイント
- 普通借家契約なら自動更新が原則だが、更新料が発生する場合もある
- 定期借家契約では更新がなく、再契約が必要なケースも
- 更新料の有効性は契約書での明記や適正額の範囲内かどうかで判断
解約時のポイント
- 借主の解約は契約書に定められた予告期間を守る
- 貸主が解約するには正当事由が必要でハードルが高い
- 退去時の原状回復をめぐって敷金トラブルが起きやすい
事前に契約書の条項をしっかり把握し、疑問点はお早めに専門家に相談することで、更新・解約時のトラブルを軽減することができます。
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