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不動産売買契約における契約不適合責任の重要性と対応策

はじめに

不動産の売買契約を締結する際には、法的な責任やリスクを十分に理解しておくことが重要です。特に、2020年4月における民法改正により「契約不適合責任」が新たに導入され、不動産取引におけるトラブルを避けるためには、その内容を正確に把握しておく必要があります。本記事では、不動産売買における契約不適合責任の概要や注意点について、わかりやすく解説します。

契約不適合責任とは何か

契約不適合責任とは、契約の目的物が契約の条件に適合しない場合に、売主が負う法的責任です(民法第562条)。例えば、不動産の売買契約において、購入した物件に構造的な欠陥があった場合や、約束された仕様と異なる点が見つかった場合、売主は買主に対してこの責任を負うことになります。以前は「瑕疵担保責任」として知られていましたが、2020年4月の民法改正により、「契約不適合責任」として新たに定義されました。

この責任が発生する場面は多岐にわたります。例えば、売買契約において物件の種類や数量が契約書の記載と異なっていたり、品質に問題があると判断された場合にも契約不適合責任が問われます(民法第562条)。さらに、物件の欠陥が契約時に明らかであったかどうかに関わらず、買主がその事実を知っている場合でも責任が発生することがあります。

契約不適合責任と瑕疵担保責任の違い

契約不適合責任は、従来の瑕疵担保責任に比べて買主の救済手段が拡充されています。以下にその主な違いを説明します。

買主の救済手段の増加

従来の瑕疵担保責任では、買主は「損害賠償請求」と「契約解除」しか選択できませんでした。しかし、契約不適合責任では、これに加えて「履行の追完請求」や「代金減額請求」も可能となっています(民法第562条、民法第563条)。これにより、買主の権利がより広範に保護されることとなりました。具体的には、売主に対して不具合を修理するよう求める「履行の追完請求」、修理が行われなかった場合には契約金額の一部を返還させる「代金減額請求」が認められるようになりました。

損害賠償請求の範囲の拡大

瑕疵担保責任では、損害賠償の範囲が「信頼利益」に限定されていました。つまり、契約が有効であると信じたことによって生じた損害のみが対象でした。しかし、契約不適合責任では、契約が有効であれば得られたであろう「履行利益」まで請求することが可能です。これにより、買主が受けた実質的な損失をより広範に回復することができるようになりました。

契約不適合責任の具体的な内容

契約不適合責任が発生した場合、買主は売主に対して以下の請求を行うことができます。

履行の追完請求

履行の追完請求とは、契約に適合しない物件について、契約条件に適合するように修補や追完を求める請求です(民法第562条)。例えば、雨漏りが発生している場合には、売主に対して修理を要求することが可能です。その他にも、設備の不足や劣化など、契約時に約束された内容と異なる場合には、修補請求が行われます。

代金減額請求

売主が履行の追完を行わない場合や、そもそも追完が不可能な場合、買主は代金の減額を請求することができます(民法第563条)。この請求は、売主が追完を拒否した時点で直ちに行うことができます。例えば、建物の大きさや面積が契約時の説明よりも小さい場合、買主はその差額に相当する金額の減額を求めることができます。

損害賠償請求

買主は、修補や追完の請求と並行して、損害賠償請求を行うことができます。ただし、損害賠償を請求するためには、売主に故意または過失があったことを証明する必要があります。例えば、売主が物件の欠陥を知っていたにもかかわらず、買主に知らせずに契約を進めた場合、買主はその損害に対する賠償を求めることができます。

契約解除

買主が履行の追完を求めても、売主がこれに応じない場合、買主は契約を解除することができます。契約が解除された場合、買主は支払った代金の返還を請求することが可能です。たとえば、建物が重大な欠陥を抱えており、その修繕が不可能な場合には、買主は契約を解除し、既に支払った代金の返還を要求することができます。

契約不適合責任の期間と制限

契約不適合責任には、権利を行使するための期間制限があります。基本的には、買主が契約不適合を知った時から1年以内に通知を行う必要があります(民法第566条第1項)。もしこの期間を過ぎてしまうと、買主は修補請求や代金減額請求などの権利を失ってしまう可能性があります。さらに、物件に関する問題が発見される時期が遅れると、それだけ問題の解決も難しくなるため、早期の対応が求められます。

新築住宅の場合

新築住宅においては、「構造耐力上主要な部分」や「雨水の侵入を防ぐ部分」について、引き渡しから10年間瑕疵担保責任を追及することができます(住宅の品質確保の促進等に関する法律第95条)。このように、新築住宅では比較的長期にわたって買主の権利が保護されているため、購入後に発生するトラブルにも柔軟に対応することができます。

宅建業者の場合

売主が宅建業者である場合、契約不適合責任の期間は引き渡し後2年間より短くすることができません(宅地建物取引業法第40条)。これは、宅建業者が専門的な知識と責任を持って取引を行うことが期待されているためであり、買主の権利保護を強化するための措置です。このように、宅建業者との取引においては、より厳しい責任追及が可能となっています。

契約不適合責任を確認する際の注意点

不動産売買契約書で契約不適合責任に関する条項を確認する際には、以下の点に注意が必要です。

 契約内容の確認

まずは、契約不適合責任としてどのような内容が認められているのか、契約書を確認しましょう。修補請求や代金減額請求が可能か、解除や損害賠償請求がどのような条件で行えるのかを理解しておくことが重要です。また、契約書の条項によっては、売主が免責される場合や、責任が制限されるケースもありますので、注意深く内容を確認する必要があります。

中古マンションの場合の注意点

中古マンションや住宅の売買では、契約不適合責任が免除されるケースがしばしば見受けられます。このような場合、物件に欠陥が見つかっても、買主は修補請求や代金減額請求を行うことができません。納得できない場合は、仲介会社を通じて相手と交渉し、契約不適合責任を設定するよう申し入れることを検討しましょう。中古物件の場合、特に物件の状態が不明確であることが多いため、契約前に十分な確認が必要です。

弁護士に相談するメリット

不動産取引における契約不適合責任は、複雑であり、専門的な知識が求められます。こうした場合に弁護士に相談することには、以下のようなメリットがあります。

法律知識の提供

弁護士は、契約不適合責任に関する法的知識を提供し、クライアントが適切な判断を下すための助言を行います。契約書の内容や法的リスクについてのアドバイスを受けることで、買主はより安心して取引を進めることができます。

交渉力の強化

弁護士が関与することで、相手方との交渉がスムーズに進み、クライアントの権利を最大限に守ることが可能です。特に、複雑な取引や相手方が宅建業者の場合など、専門的な交渉が必要とされる場面では、弁護士のサポートが有効です。

リスクの最小化

事前に弁護士に相談することで、契約書の不備やリスクを未然に防ぎ、トラブルの発生を抑えることができます。これにより、契約後に発生する可能性のある問題を最小限に抑え、スムーズな取引を実現することができます。

まとめ

不動産の売買契約を締結する際には、契約不適合責任に関する知識が大切です。契約書の内容を正確に理解し、必要に応じて専門家の助言を受けることで、トラブルを未然に防ぐことができます。弁護士法人長瀬総合法律事務所では、契約書のチェックからトラブル対応まで、幅広くサポートを行っております。不動産取引でお困りの際は、ぜひ一度ご相談ください。

この記事を書いた人

⻑瀬 佑志

⻑瀬 佑志

弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。約150社の企業と顧問契約を締結し、労務管理、債権管理、情報管理、会社管理等、企業法務案件を扱っている。著書『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)、『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践しているビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)ほか。

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