地代をめぐる増減額のポイントと具体的手続き
はじめに
近年、土地の利用形態や周辺相場の変動により、「地代を上げたい」「地代を下げたい」というニーズが高まっています。一方で、「どのような手続を踏めばよいのか」「相手方との話し合いがうまく進まなかったらどうなるのか」といった疑問や不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、地代の増減額請求にまつわる基本的な考え方から手続の流れ、そして紛争が生じた場合の解決方法を解説します。また、手続を進める際に生じやすい注意点や、実際に紛争が長引いた場合のリスクなどについても触れています。さらに、弁護士に相談するメリットをご紹介します。
地代の増減額問題は、日常的にはあまり馴染みのない領域かもしれません。しかし、いざ交渉や紛争になると時間や労力だけでなく、良好な関係の維持にも影響を及ぼすことがあります。手続の全体像を把握し、適切な対策を講じることはとても重要です。この記事をお読みいただくことで、地代に関するトラブルを少しでもスムーズに、円満に解決するヒントをつかんでいただければ幸いです。
地代の増減額請求とは
地代増減額の背景
土地を賃貸している場合、賃貸借契約により毎月または年ごとに支払う賃料を「地代」と呼びます。この地代の金額は、契約当初に取り決められるケースが一般的ですが、契約後に周辺の地価や利用形態が変わり、相場とかけ離れてしまうことがあります。
たとえば、地代が最初に定められたのが数十年前であった場合、インフレや土地の価格変動などによって、現在の金額が実情と合わなくなっていることも珍しくありません。一方で、地価が下がっているのに昔のままの高額な地代を支払い続けているケースも考えられます。こうした状況を調整するために、「地代の増減額請求」という手続が法律上認められています。
増額請求と減額請求の根拠
地代の増減額請求は、借地借家法や民法などの関連法規により、その必要性が認められる場合に行われます。
- 増額請求
土地を貸している地主(賃貸人)が、現行の地代が安すぎる場合に「周辺相場などを踏まえて、もっと地代を上げたい」と要求する手続。 - 減額請求
借地人が、現行の地代が高すぎる場合に「周辺相場などを踏まえて、もっと地代を下げたい」と要求する手続。
請求を行うには、相当の理由や周辺の賃料相場に関する客観的根拠が必要となるのが一般的です。ただし、まずは当事者間の話し合いによる解決が最優先されるため、いきなり裁判を起こすのではなく、交渉や調停などの手段を使って折り合いをつける努力が求められます。
当事者間の話し合い(合意)
話し合いによる合意が原則的解決方法
地代の金額を変更する場合、最も望ましいのは、地主と借地人が話し合いを行い、お互いが納得できるラインを見つけて合意に至ることです。法律手続に入る前に、まずは当事者同士で交渉するのが基本です。とくに、地代が最後に改定されたのが50年前など、極端に古い場合、周辺の地代の相場と比較してかけ離れているケースが見受けられます。そのような場合は、「今のままではどちらか一方に不公平な状態になっているのではないか」という視点をもとに、協議を進めるとよいでしょう。
合意が成立した場合の注意点
もし当事者間の話し合いで金額を決定できた場合、その合意内容をきちんと書面化しておくことが重要です。口頭だけの合意では、後に「そんな話は聞いていない」「認識が違っていた」などのトラブルに発展しかねません。
- 合意書の作成
変更後の地代や、改定の時期、今後の見直し方法などを具体的に記載します。 - 書面での確認
双方が納得できる内容かどうか、よく確認してから署名・押印を行いましょう。
また、地代の改定に際して契約書自体の内容が変わる場合は、必要に応じて契約書も新しく作り直す、あるいは契約書に付随する書面を作成して、改定内容を明示することが大切です。
調停手続
調停手続とは
当事者間の話し合いだけでは地代の金額を決定できない場合、いきなり裁判を起こすのではなく、まずは家庭裁判所または簡易裁判所(事件の内容や金額によって異なります)に「調停」を申立てる必要があります。これは、法律上、地代の増減額請求を訴訟で争う場合、先に調停手続を経なければならないとされているためです。
調停手続では、調停委員(通常は法律や不動産に詳しい有識者などで構成)が間に入り、当事者が互いに納得できる結論を目指します。双方の主張を聞き、周辺の地代相場などの資料がある場合は提出を促し、それらを踏まえながら仲介や調整を行ってくれます。
調停が成立した場合
調停の場で地代の金額や改定時期などの条件が合意に至った場合、「調停調書」にその合意内容が記載されます。調停調書には判決と同様の効力があり、後から一方的に合意内容をくつがえすことは難しくなります。
- 合意内容の具体化
新しい地代の額や支払方法、開始時期などを詳しく記載します。 - 調停手続の終了
調停調書が作成されることで手続が終了し、その内容に基づいて地代を改定します。
不調となった場合
調停の場で話し合いがまとまらず不成立(不調)となった場合は、そのまま訴訟に進むことができます。調停を申立てたにもかかわらず両者の意見が折り合わない場合、裁判所において正式に訴訟を起こして地代を決定してもらう流れとなります。
訴訟手続
訴訟で争う場合の流れ
調停手続が不調に終わったとき、もしくは調停自体が成立困難と判断された場合などに、当事者は訴訟手続に進むことができます。訴訟では、原告・被告双方が裁判所に書面や証拠を提出し、最終的には裁判所が「どの程度の地代が妥当か」を判決で示すことになります。
訴訟の主な流れ
- 訴状の提出
地代の増額・減額を求める当事者(原告)が裁判所に訴状を提出します。 - 答弁書の提出
被告(相手方)は、訴状に対して答弁書を提出し、自身の主張を述べます。 - 証拠の提出・口頭弁論
地代の相場に関する資料や契約書、過去の支払い実績などの証拠を提出しながら、口頭弁論で主張・立証を行います。 - 和解の協議
訴訟手続の途中で、裁判所が和解を勧める場合があります。話し合いによって合意に達すれば、訴訟は和解で終了します。 - 判決
和解が成立しない場合は、裁判所が判決を出し、法的な地代額を確定させることになります。
訴訟で重視されるポイント
訴訟においては、主張と証拠がすべてです。客観的データをどれだけ充実させられるかが重要な要素になります。たとえば、近隣の賃料相場や鑑定評価書を入手するなど、地代額を裏づける証拠をそろえておくと説得力が高まります。
ただし、訴訟は時間や費用がかかり、当事者間の対立も激化しやすい手続です。話し合いで歩み寄れる可能性が少しでもある場合は、訴訟に至る前に再度、交渉や和解を検討することをおすすめします。
増減額請求中の地代の扱い
地代の増減額請求を行っている間、最終的にいくらになるか確定していない場合には、当事者がどう対応すればよいのか迷うところです。法律上は、増額請求・減額請求それぞれにおいて以下のルールが定められています。
増額請求中(未確定の間)
借地人は「適当と認める額」を支払えばよいとされています。しかし、最終的に裁判所などで確定した金額がその「適当と認める額」を上回った場合は、差額をあとから支払わなければなりません。
合意や調停・和解時の注意点
当事者間の話し合いや調停・和解の場で地代を確定させる場合、不足分の精算方法についても取り決めておく必要があります。「いつまでにどのようにして差額を支払うのか」「利息の計算方法はどうするのか」といった点は後々のトラブルを避けるうえで重要です。
減額請求中(未確定の間)
地主は「適当と認める額」を主張し、借地人に請求できます。最終的に確定した金額がこの「適当と認める額」を下回った場合、地主は払いすぎた分を返還しなければなりません。
地代の一部不払いによる契約解除のリスク
借地人が一方的に「自分で考えた減額後の賃料」しか支払わない場合、地主からすると地代の一部が未払いになっているという扱いを受ける可能性があります。その結果、賃貸借契約解除のリスクが生じることもあるため、慎重に対応しなければなりません。安全策としては、最低限、現行の地代を払い続けながら話し合いや手続を進めるなど、リスク回避の方法を検討することが望ましいでしょう。
弁護士に相談するメリット
地代の増減額問題は、一見単純なようでいて法律的な論点も多く、相場調査や交渉力がものをいう側面があります。弁護士へ相談することで、以下のようなメリットが得られます。
- 法律的観点からの正確なアドバイス
地代の増減額が認められる条件や手続、必要な証拠などについて、法律の専門家として的確にアドバイスできます。特に、借地借家法や民法に定められた特殊な規定を踏まえた判断が必要な場合には、弁護士の知見が有益です。 - 円滑な交渉のサポート
当事者同士の直接交渉では、感情的な対立が激化し、良好な関係が損なわれるリスクもあります。弁護士を間に入れることで、合理的な根拠に基づいた主張や第三者視点での提案ができるため、冷静に問題を解決しやすくなります。 - 調停・訴訟手続の代理
地代増減額問題では、調停や訴訟を避けられないケースも少なくありません。その際、弁護士が代理人として裁判所の手続を進めることで、書面作成や提出証拠の検討などがスムーズに行えます。また、訴訟の手続や法律的主張を弁護士に一任できるため、依頼者が負担する精神的ストレスや手間を大きく軽減できます。 - 長期的な視点での解決策の提示
地代の改定は、一度行われれば今後の長期間にわたって影響を及ぼします。弁護士に相談すれば、今だけでなく将来的なリスクや法改正の可能性なども踏まえて、最適な解決策を提示してもらうことが期待できます。
まとめ
地代の増減額請求は、地主・借地人双方にとって重要な問題です。相場からかけ離れた地代のまま放置すると、一方に負担や不利益が集中し、トラブルが深刻化する恐れがあります。まずは当事者同士での話し合いを試み、それが難しければ調停へ進み、それでも解決に至らなければ訴訟を通じて最終的な判断を仰ぐことになります。
しかし、いずれの方法を選択するにしても、十分な事前準備や客観的な資料・証拠の収集が求められます。特に紛争が長期化すると精神的・経済的な負担が大きくなるため、お早めに弁護士に相談して適切なアドバイスを受けることが、円滑な問題解決につながるかと思います。
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