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売買契約トラブル事例と対処法

はじめに

不動産売買の現場では、金額が大きいこともあり、様々なトラブルが発生します。たとえば「売買契約締結後に買主がローン不承認となり決済できなくなった」「隠れた欠陥(契約不適合)が発覚して損害賠償が請求された」「手付金の扱いをめぐって揉めた」など、契約段階から引渡し後まで、潜在的なリスクは多々存在します。

本稿では、不動産売買における主要なトラブル事例を取り上げ、どのような法的対処や予防策が考えられるのかを解説します。売主・買主の双方にとって高リスクな領域だからこそ、事前の注意点や対応策を理解しておくことが重要です。

Q&A

ローン特約があるのに買主が決済できなくなりました。自動で契約解除になるのですか?

通常、ローン特約には「買主が〇月〇日までに融資承認を得られなかった場合、契約を無条件解除とし、手付金は返還する」などの規定が設けられています。しかし、特約の行使期限を過ぎている場合や、買主側の手続き不備などで特約が適用されないケースもあるため、一概には自動解除とはなりません。契約書の内容をよく確認し、必要に応じて弁護士へ相談しましょう。

引渡し後に雨漏りが見つかった場合、売主に修理費用を請求できますか?

売主が契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)を負う契約になっている場合、引渡し後一定期間内であれば修補請求や損害賠償請求が可能です。ただし、個人間売買で「契約不適合責任を負わない」特約があった場合、請求が難しくなる場合があります。売主が隠蔽していたことを立証できれば特約が無効とされる可能性もあります。

手付金を放棄して買主が解除したのに、売主が納得せずに裁判になることはありますか?

あり得ます。手付解除の条件をめぐって争いになることがあるからです。契約書で「履行に着手するまで」という文言の解釈や、手付金以外の賠償を主張する売主がいる場合もあります。こうした場合には裁判所の判断を仰ぐこととなり、弁護士のサポートが欠かせません。

境界トラブルは売買契約の段階でも発生するのですか?

はい、土地の売買契約では境界確定作業が進んでいなかったり、隣地所有者との紛争が残っているケースがトラブルの火種になります。売買後に境界問題が発覚すると買主が予想外の費用負担を強いられる可能性があるため、契約前に測量や境界確認をしっかり行うことが望ましいです。

引渡しが遅れたり、残代金が支払われないなどの債務不履行が起きたらどう対処すればよいですか?

まずは契約書に定められた違約金や催告手順を確認します。売主なら買主に支払いを催告したうえで解除・違約金請求を、買主なら売主に引渡しを求めるか、解除・違約金を請求するかといった対応になります。話し合いで解決できない場合は弁護士を通じて法的手段を検討することが重要です。

解説

代表的なトラブル事例

  1. ローン審査不承認による契約不成立
    買主がローン特約を使って無条件解除を行うケース。特約期限内なら手付金が返還されるが、期限を過ぎた場合など条件を満たさない場合、違約扱いとなる可能性がある。
  2. 引渡し後の契約不適合(瑕疵)発覚
    雨漏り・シロアリ被害・設備不良など、住んでみないと気づけない不具合が典型例。売主が宅建業者なら一定期間の保証が法律で義務付けられるが、個人売主の場合は特約がどうなっているか要確認。
  3. 境界・越境トラブル
    土地の測量を行っていない状態で契約すると、後から境界線がずれていたり越境物があると分かることがある。最悪、土地面積が大きく変わるなどして契約条件が根本的に覆る場合もある。
  4. 手付金・違約金をめぐる紛争
    手付解除の有効性や、違約金額が過大かどうかなどで揉めるケース。特に高額物件では大きな金銭トラブルに発展しやすい。
  5. 残代金決済トラブル
    既に売買契約は結んでいるのに、買主が何らかの事情で残代金を用意できない、または売主が引渡しを拒否するといった事例。債務不履行として解除・損害賠償を求められる。

法的対処の基本的な流れ

  1. 契約書の確認
    まずは契約書や重要事項説明書で、該当トラブルに関する条項(違約金・手付金・契約不適合責任など)を確認します。契約書に従って解除や損害賠償の手続を進めるケースが大半です。
  2. 話し合い・交渉
    弁護士や仲介業者を通じて相手方と協議し、和解・示談を模索します。相手の主張や要求が妥当かどうか、法的根拠を整理しながら議論を進めることが重要です。
  3. 調停・ADR(裁判外紛争解決)
    話し合いが難航した場合、簡易裁判所や各種調停・ADR機関を利用する方法もあります。第三者が間に入ることで柔軟な解決が見込める場合があります。
  4. 訴訟(裁判)
    最終的には地方裁判所などで訴訟を提起し、判決を求めることになります。費用と時間がかかるため、できれば和解・調停での解決を目指すのが一般的ですが、やむを得ない場合には訴訟が有効な解決手段となることもあります。

事前予防策

  1. 契約書の作成・チェック
    不動産会社が作成したひな形を丸呑みせず、手付金や違約金の条項、瑕疵担保(契約不適合)責任の範囲などを十分に確認します。必要に応じて弁護士にリーガルチェックを依頼するのが望ましい場合もあります。
  2. 境界確定・測量の実施
    土地売買の場合、境界未確定のまま契約すると後々大きなトラブルに発展しやすいです。隣地所有者と協議して境界標を設置し、公的に測量図を作成しておくと安心です。
  3. ローン特約の明確化
    買主がローンを利用する場合は、ローン特約の内容や期限を明確にし、特約を行使できる条件を確認します。売主側からしても、特約が無用に延長されないよう期限をきちんと定めることが重要です。
  4. インスペクション・設備表の整備
    中古物件の場合、事前に建物状況調査を行い、設備表(どの設備が残るか、その動作状況はどうか)を整備することで瑕疵や不具合に関するトラブルを減らせます。

弁護士に相談するメリット

  1. トラブル予防と早期解決
    契約書作成段階から弁護士に依頼し、不公平な特約や曖昧な条項を排除しておくことで、後々の紛争を大幅に回避できます。トラブル発生後でも、早期に弁護士が介入することでスムーズに和解・示談交渉を進めやすくなります。
  2. 専門的知識を活かした交渉
    不動産売買に絡む法律(民法、不動産登記法、宅建業法など)は複雑です。弁護士が法的根拠を整理し、適切な主張・証拠を用意することで、有利な和解や裁判上の解決を目指すことが可能となります。
  3. 裁判対応
    話し合いで解決できない場合でも、弁護士が訴訟代理人としてサポートします。証拠収集や主張立証のノウハウがあるため、当事者間だけで対立しているよりもスムーズに進むケースもあります
  4. 弁護士法人長瀬総合法律事務所の実績
    当事務所(弁護士法人長瀬総合法律事務所)は、不動産売買における多種多様なトラブル事案を取り扱ってまいりました。境界問題や瑕疵担保責任(契約不適合責任)、ローン特約の不履行など、事例ごとに適切な対応策を提案いたします。

まとめ

不動産売買のトラブルは、ローン特約・契約不適合責任・手付解除・境界問題・違約金など、さまざまな要因から発生します。いずれも金額や期間が大きく絡むため、早期の段階で予防策を講じ、問題発覚後は迅速かつ適切に対処することが肝心です。

  • 契約前の準備
    境界確定やインスペクション、契約書のリーガルチェックなどを行い、不安要素を排除する。
  • トラブル発生時の対処
    契約書に基づいた権利主張や催告、弁護士を介した交渉・調停・訴訟など、法的手続きを冷静に進める。
  • 専門家との連携
    高額取引ゆえに揉めると時間も費用もかかる。早めの段階で弁護士や測量士などの専門家を活用する。

売主・買主双方が納得できる取引を実現するために、予防と対策をしっかり備えておきましょう。

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この記事を書いた人

⻑瀬 佑志

⻑瀬 佑志

弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。約150社の企業と顧問契約を締結し、労務管理、債権管理、情報管理、会社管理等、企業法務案件を扱っている。著書『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)、『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践しているビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)ほか。

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