不動産価格交渉のポイント
はじめに
不動産の売買では、提示された売り出し価格や購入希望価格がそのまま成立価格になるとは限りません。市場相場や物件の需要度、売主・買主の事情など、さまざまな要素をふまえて「価格交渉」が行われることが多いからです。特に数千万円、数億円という大きなお金が動く不動産取引では、価格交渉の成否が大きな金銭差を生む可能性があります。
一方で、値下げ交渉や売却価格の引上げ要求をめぐり、売主・買主が対立し、取引が決裂してしまうこともしばしば見受けられます。そこで本稿では、「不動産価格交渉のポイント」として、交渉時に押さえておきたい基本的な考え方や準備、実務上のコツを解説します。適切な価格交渉で、納得のいく売却・購入につなげましょう。
Q&A
売主側は、どのようなタイミングで値下げ交渉に応じるのでしょうか?
売り出し後、一定期間が経過しても反響が少ない場合や、売主自身に早期売却の事情がある場合などに値下げ交渉を受け入れるケースが多いです。また、ライバル物件の価格動向や、市場全体の需給バランスにも左右されます。繁忙期(春先)を逃して売却が長引くと、値下げが現実的な選択肢になることがあります。
買主側が価格交渉をする際、どういった資料や根拠を提示すれば説得力が高まりますか?
近隣の類似物件の成約事例や、売却中の物件価格を比較した資料を提示すると、単なる“値切り”ではなく「相場を踏まえた交渉」であることをアピールできます。物件の修繕・リフォームが必要な箇所がある場合、その見積書や費用試算を用意しておくのも有効です。
値下げ交渉にはどのくらいの幅(%)を見込むのが一般的ですか?
立地や物件状態などの条件によって異なります。人気エリアで物件数が少ない場合、値下げ交渉がほとんどできないケースもあれば、大幅値下げが起こりうるケースもあります。相手方が早期売却を望んでいるかどうかもポイントです。
価格交渉の結果、取引が決裂するリスクを下げるにはどうすればいいですか?
まずは、過度に強引な値下げ要求や、根拠のない高値要求は避けましょう。市場相場や物件の状態に基づく“筋の通った交渉”を意識することが大切です。交渉が難航している場合は、仲介業者や弁護士が間に入って、お互いの言い分を整理する方法もあります。
購入したい物件が複数ある場合、同時に価格交渉しても大丈夫ですか?
同時交渉自体は法的に問題ありませんが、売主を競合させるようなやり方を公言すると反発を招くこともあります。逆に買主側が誠実に交渉している印象を持ってもらえないと、結果的にどちらの物件も買えなくなる可能性もあるので注意が必要です。
解説
専門用語の定義
- 指し値(値下げ要求)
売主が提示した売り出し価格より安い価格を提示して交渉することを指します。日本の不動産取引では、買主側から「指し値」を入れることは一般的であり、物件や地域によっては一定の値下げ交渉が通る場合もあります。 - 逆指し値(値上げ要求)
希望価格に届かない買付申込みがあった場合、売主が買主に「もう少し価格を上げてほしい」と返すことをいいます。買付申込者が複数いるときなどに使われる手法です。 - 買付証明(購入申込書)
物件を「いくらで買いたい」という意思を正式に示すための書類。買主が仲介業者を介して提出し、売主が検討する流れが一般的です。価格や条件に差がある複数の買付証明が同時に出されることもあります。
基本的な流れ・手続き
- 売主の売り出し価格設定
売主は不動産会社の査定結果などを参考に売り出し価格を決定します。相場より高めに設定するケースもあれば、早期売却を狙ってやや低めに設定する場合もあります。 - 買主の買付申込み・価格交渉
買主が「この物件を購入したい」と思えば、買付証明書を提出し、希望購入価格を提示します。通常は売り出し価格より低い金額で指し値をすることが多く、売主がそれを検討する形です。 - 交渉・折衝
売主が「もう少し価格を上げてくれないか」と逆指し値をしたり、買主が「リフォーム費用がかさむので値下げしてほしい」と追加交渉をしたり、双方で条件をすり合わせます。仲介業者が間に入って調整することが一般的です。 - 合意・契約締結
価格や諸条件に合意できれば、売買契約を締結。手付金の支払い、重要事項説明、契約書の取り交わしなどのプロセスへ移ります。
想定事例
- 事例1:リフォーム費用を根拠に値下げ交渉
中古戸建てを購入する買主が、設備の老朽化や内外装リフォームの見積もりを提示し、売り出し価格から100万円の値下げを要求。売主は当初渋っていたが、リフォームの必要性が確かにあることを認め、結果的に50万円の値下げで合意した。 - 事例2:複数の買付申込みが同時に入ったケース
人気エリアのマンションで、ほぼ同時期に2件の買付申込みが入り、双方とも売り出し価格よりやや低めの指し値。売主は高い方の買付に対して「さらに20万円上乗せできないか」と逆指し値を行い、成約を勝ち取った。
実務上の注意点
- 相場調査と価格根拠の提示
買主が値下げ交渉をする場合、地図や成約事例、リフォーム見積もりなど具体的根拠を示すとスムーズです。一方、売主も近隣相場を把握しておくことで、適正な反論や条件提示が可能になります。 - 心理戦とタイミング
売主は「まだもう少し高値で買う人がいるのでは?」と期待し、買主は「早期に決めないと他に買われてしまうのでは?」と焦るなど、心理的な駆け引きが発生します。市場が売り手優位か買い手優位かも重要なファクターです。 - 仲介業者の意向を確認
仲介業者も成約を目指して動くため、双方の希望価格の落としどころを見つける役割を担います。ただ、中には“囲い込み”や“両手仲介”などの問題で、公平性が保たれにくいケースもあるため、信頼できる業者かを見極めることが大切です。 - 決裂リスクも覚悟する
大幅な値下げ要求や執拗な価格交渉は、相手方の心証を悪くし、結果的に取引が破談になることもあります。価格交渉が不調に終わった場合の代替策や予算計画をあらかじめ考えておくと安心です。
弁護士に相談するメリット
- 複雑な交渉の整理・代行
価格交渉が長引くうちに手付金や契約書内容、瑕疵担保(契約不適合)責任などの別の問題が絡んでくる場合があります。弁護士が交渉全体を整理し、法的根拠を示したうえで対話を進めることで、トラブルを最小限に抑えることが可能です。 - 契約内容のチェックとリスク回避
合意に至ったあとに締結する売買契約書に、不利な特約が記載されていないかなど、弁護士がリーガルチェックを行うことで、後々の紛争リスクを下げることができます。 - 訴訟リスクへの備え
価格交渉が決裂したうえで手付金の返還・没収や違約金の請求などに発展するケースでは、訴訟に至る可能性も考慮しなければなりません。弁護士に早めに相談することで、のちの紛争リスクの検討を行うことも可能です。 - 弁護士法人長瀬総合法律事務所のサポート
当事務所(弁護士法人長瀬総合法律事務所)は、不動産売買に関する紛争を解決してきた知見を有しています。納得感のある売買を実現するために、法的な視点からサポートいたします。
まとめ
不動産価格の交渉は、大きな金額が動くゆえに双方とも慎重かつ駆け引きが必要なステージです。
- 買主サイド
相場やリフォーム費用など具体的根拠を示し、無理のない指し値を行う - 売主サイド
市場状況や自分の売却事情を踏まえつつ、希望価格とのバランスを探る - 仲介業者活用
双方の意見を客観的に調整してもらえるが、業者の方針や意図を把握する - 合意内容の法的リスク
弁護士のリーガルチェックにより、予期せぬトラブルを防ぐ
適切な価格交渉が成立すれば、双方にとって納得のいく売買契約が結ばれやすくなります。焦りや感情的な対応を避け、根拠ある交渉を心がけましょう。
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