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法人名義での登記と注意点

はじめに

不動産を法人名義(会社名義)で購入し、登記を行うケースは少なくありません。事業用物件の取得や投資用不動産の所有など、個人名義と比べて節税や財務上のメリットがある一方で、注意すべきリスクや留意点も存在します。

本稿では、法人名義で不動産を取得・登記する際の基本的な流れや、気を付けたいポイント、そしてトラブルを回避するために押さえておきたい事項を解説します。

Q&A

Q1.法人名義で不動産を所有するメリットは何でしょうか?

法人名義のメリットとしては以下が挙げられます。

  • 税務メリット
    減価償却費や経費計上などを通じて節税効果を得やすい場合がある。
  • 事業用資産として扱える
    融資を受けやすくなることがある。
  • 相続対策
    個人に比べ、相続が発生しても法人としての所有が継続するため、資産移転にかかる手続きが簡略化する場合がある。
Q2.法人名義で不動産を購入する場合、どんな手続きが必要ですか?

個人名義と基本的な流れは同じですが、登記申請書には法人名義(会社の商号・所在地・代表者の氏名)を記載します。また、法人の印鑑証明書や法人の実印(代表者印)を用いる必要があります。法務局には登記事項証明書(法人登記簿謄本)や会社代表者の資格証明書なども提出することがあります。

Q3.法人代表の個人名義にするか、法人名義にするかを悩む場合はどう判断すれば良いですか?

事業の目的や税務・財務状況、将来の事業計画などによって最適な判断は変わります。例えば、事業用の物件を法人で購入すれば経費処理がしやすくなる利点があり、逆に個人名義で所有すれば小規模宅地特例などの相続税対策が有利となることもあります。弁護士や税理士に相談しながら総合的に判断するのが望ましいといえます。

Q4.法人名義で買った不動産を代表者や役員が個人で利用する場合、問題はありますか?

法人名義の不動産は会社の資産であり、代表者や役員が個人的に利用する場合、社内規程や税務上の扱いを明確化しておかないとトラブルになる可能性があります。例えば、社宅として貸し付ける形をとる場合は、賃料相当額を設定しなければ役員賞与扱いとなり税務上のリスクが生じる場合があります。

Q5.不動産を法人名義にしておくと、個人の債務や差押えから守られるのでしょうか?

一般的には、法人の資産は個人の債務に対する強制執行の対象にはならないため、法人名義にしておくことで個人の債務・差押えからは保護される可能性があります。ただし、代表者が連帯保証した場合や法人・代表者間の資産混同がある場合は、法人格否認の法理が適用されるリスクもあるため注意が必要です。

解説

法人名義の不動産登記の流れ

不動産の購入契約(売買契約)

法人として不動産を買う場合、契約書には法人の商号・代表者の記名押印を行い、売買代金の支払条件などを定めます。

決済・所有権移転登記手続き

決済日に法人から売主へ残代金を支払い、司法書士が登記申請書を作成します。申請書には法人名義(法人の名前・住所・代表者名など)を記載し、代表者印(会社実印)の押印が必要になります。

必要書類の準備
  • 法人の登記事項証明書(商業登記簿謄本)
  • 法人の印鑑証明書
  • 定款の写し(求められる場合あり)
  • 代表者の本人確認資料など
法務局への提出・登録免許税の納付

不動産の固定資産税評価額に応じて、登録免許税を納付します。住宅用か事業用かで税率が異なる場合があります。

登記完了と登記識別情報の交付

法務局で登記が完了すると、法人名義の登記識別情報(または権利証)が交付されます。これが会社の不動産資産であることを示す証拠書類となります。

法人名義のメリット・デメリット

メリット
  • 税務面での優遇
    減価償却費を経費処理できるなど、法人税の節税効果が期待できるケース。
  • 相続対策
    代表者の死亡による資産凍結リスクが低減され、法人として継続保有する形がとりやすい。
  • 信用力・融資の面
    法人の信用で融資を受ける場合、個人より枠が大きくなることがある。
デメリット
  • 税務管理の複雑化
    法人税申告や固定資産税、都市計画税の管理を法人として行う必要があり、個人事業より会計処理が煩雑。
  • 個人資産との混同リスク
    法人と代表者が資産を混用すると、法人格否認が適用される恐れ。
  • 役員借入・貸付問題
    法人所有物件を役員が使用する際の賃料設定や費用負担で税務上のリスクが生じる。

実務上の注意点

費用対効果の検証

不動産取得に関する諸経費、登録免許税、毎年の法人税、維持管理費などを考慮し、法人名義にするメリットがどの程度あるかを事前に試算する必要があります。

定款の目的

法人が不動産を所有する際、その法人の定款に「不動産の取得・保有」などの目的が含まれていないと融資や取引で制限を受ける場合があります。必要に応じて定款変更を検討することも重要です。

個人保証や抵当権

中小企業の場合、代表者が個人保証したり、代表者の個人資産と法人資産が一部混在しているケースが多いです。責任区分を明確にしておかないと、法人の不動産が個人の債務や保証の対象に巻き込まれるリスクが出てきます。

弁護士に相談するメリット

  1. 最適なスキームの構築
    弁護士や税理士と連携し、法人名義か個人名義か、もしくは他のスキーム(合同会社設立など)を選択するのが有利か、法務・税務両面で検討が可能です。
  2. 契約書のリーガルチェック
    不動産購入契約や抵当権設定契約など、契約書に法人が当事者として署名する場合、不利な条項や法的リスクがないかを弁護士が確認することで、後々の紛争を未然に防げます。
  3. 取引先や金融機関との交渉
    代表者保証や担保設定などで意見が食い違った場合、弁護士が代理人として交渉を行い、適切な契約条件を確保するサポートを行うことができます。
  4. 弁護士法人長瀬総合法律事務所の強み
    当事務所(弁護士法人長瀬総合法律事務所)は、企業法務と不動産案件を数多く扱っており、法人が不動産を取得・運用・売却する際の実務に豊富な経験があります。税理士や司法書士とも連携し、複雑な問題もサポートが可能です。

まとめ

法人名義での不動産登記には、節税効果や事業上のメリットが見込める一方、会計・税務上の手続きや取引リスクへの注意が不可欠です。

  • 法人名義の主なメリット
    税制面の恩恵、相続リスクの低減、信用力向上など
  • 留意点・デメリット
    管理コスト増、個人資産との混合リスク、役員借り入れや保証問題など
  • 登記手続き
    登記申請書に法人情報を記載、印鑑証明書や商業登記簿謄本などが必要
  • 弁護士・税理士との相談
    総合的に判断し、最適な所有スキームを検討する

どのような場面でも法人名義が常に得策とは限りません。事業計画や相続、税務の観点から、専門家とともに適切な選択を行い、安全かつ有利に不動産を活用することを目指しましょう。


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この記事を書いた人

⻑瀬 佑志

⻑瀬 佑志

弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。約150社の企業と顧問契約を締結し、労務管理、債権管理、情報管理、会社管理等、企業法務案件を扱っている。著書『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)、『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践しているビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)ほか。

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