警察相談専用電話「#9110」で相談できる不動産トラブルとは?近隣トラブルと警察の役割を弁護士が解説
はじめに
マンションやアパート、戸建て住宅において、平穏な生活を脅かす「近隣トラブル」は、誰にでも起こり得る深刻な問題です。騒音、ゴミ出しのルール違反、敷地への立ち入り、さらには特定の入居者からの執拗な嫌がらせなど、その内容は多岐にわたります。
こうしたトラブルに直面した際、「警察に相談すべきだろうか」と悩む方は少なくありません。しかし、「110番通報するほど緊急性があるわけではない」「警察沙汰にして報復されるのが怖い」「民事不介入と言われて相手にされないのではないか」といった不安から、誰にも相談できずに一人で抱え込んでしまうケースが多く見受けられます。
不動産トラブル、特に近隣住民との紛争において、警察は重要な相談先の一つです。ただし、警察が対応できる範囲には法的な限界があり、すべての問題を解決できるわけではありません。そこで役立つのが、緊急性のない警察相談専用電話「#9110」です。
本記事では、弁護士法人長瀬総合法律事務所が、警察相談専用電話「#9110」の概要と、警察に相談できる不動産トラブルの具体例、そして警察が介入できる境界線(民事不介入の原則)について詳しく解説します。適切な相談先を選び、早期に平穏な生活を取り戻すための一助となれば幸いです。
不動産トラブルと警察相談に関するQ&A
Q1. 近隣トラブルで「#9110」にかけると、どのような対応をしてくれますか?.
「#9110」は、犯罪や事故の発生には至っていないものの、ストーカーやDV、悪質商法、近隣トラブルなど、警察への相談が必要な場合に利用できる全国共通の短縮ダイヤルです。
電話をかけると、発信地を管轄する都道府県警察本部の「警察総合相談センター」などに繋がります。ここでは、相談員がトラブルの内容をヒアリングし、法的なアドバイスを行ったり、専門の担当部署への引き継ぎ、あるいは法テラスや消費生活センターなど他の専門機関の紹介を行ったりします。緊急の出動要請ではなく、問題解決に向けた「道筋」を示してくれる窓口と考えると良いでしょう。
Q2. 隣人の騒音や嫌がらせは、警察に相談すれば解決しますか?
ケースバイケースです。警察は「犯罪」を取り締まる機関であるため、相手の行為が刑法などの法律に触れる場合(暴行、脅迫、器物損壊、住居侵入など)は、事件として捜査したり、警告を行ったりすることが可能です。
一方で、単なる生活音の苦情や、敷地境界線の争いなどは「民事トラブル」とみなされ、警察が直接介入して解決することは原則としてできません。ただし、相談の記録を残すことは、後に弁護士を通じて法的措置をとる際に重要な証拠となることがあります。
Q3. 「民事不介入」と言われました。もう警察は動いてくれないのでしょうか?
「民事不介入」とは、金銭の貸し借りや契約上のトラブルなど、個人間の争いに対して警察は権力を行使すべきではないという原則です。しかし、近年ではこの原則の解釈も変化しており、民事上のトラブルが背景にあっても、暴行や脅迫などの犯罪行為が行われていれば、警察は介入します。また、ストーカー規制法やDV防止法などに関連する事案では、被害者の安全確保が最優先されます。
「民事だから」と諦めず、具体的な被害(身の危険を感じる言動や物理的な損害)を強調して相談することが重要です。
解説:警察相談専用電話「#9110」と不動産トラブルへの対応
「#9110」と「110番」の決定的な違い
不動産トラブルにおいて警察への連絡を躊躇する最大の理由は、「110番していいのかわからない」という点にあるでしょう。ここで明確に使い分ける基準をご説明します。
110番通報すべきケース
- 「今、まさに」 事件や事故が起きている、または起きようとしている場合。
- 隣人が暴れており、暴力を振るわれそうになっている。
- 見知らぬ人物が敷地内に侵入し、現在もそこに居座っている。
- 部屋のドアを激しく叩かれ、脅迫的な言葉を叫ばれている。
これらは一刻を争う緊急事態ですので、迷わず110番通報をし、警察官の臨場を求めてください。
#9110を利用すべきケース
- 緊急性はないが、警察に相談したい困りごとがある場合。
- 過去に受けた嫌がらせについて相談したい。
- 隣人の行動が不審で、将来的に事件に発展しそうで不安だ。
- 騒音トラブルが続いており、巡回などを強化してほしい。
「#9110」は、緊急通報による回線のパンクを防ぎつつ、市民の不安を解消するために設置された窓口です。相談内容に応じて、所轄の警察署への情報提供や、専門機関へのリファー(紹介)が行われます。
警察が対応できる不動産トラブル・近隣トラブル(刑事事件)
警察は「民事」には介入しませんが、「刑事事件」には介入します。近隣トラブルであっても、相手の行為が刑法に触れるものであれば、警察は動くことができます。不動産トラブルで該当する可能性が高い犯罪類型には、以下のようなものがあります。
(1) 住居侵入罪(刑法130条)
正当な理由なく、他人の住居やその囲いのある敷地(庭やベランダなど)に侵入する行為です。
- 隣人が勝手に庭に入ってくる。
- 無断でベランダに登ってくる。
これらは明確な犯罪であり、警察への相談対象となります。
(2) 器物損壊罪(刑法261条)
他人の物をわざと壊したり、使えなくしたりする行為です。
- 家の壁に落書きをされた。
- 植木鉢を割られた、車を傷つけられた。
- ペットを傷つけられた(動物傷害)。
これらも「物」に対する犯罪として扱われます。
(3) 暴行罪(刑法208条)・傷害罪(刑法204条)
直接殴る蹴るの暴行だけでなく、以下のような行為も暴行罪に問われる可能性があります。
- 胸倉をつかむ。
- わざと近くで大声を出し続けたり、太鼓を連打したりして意識を朦朧とさせる(聴覚への暴行)。
- 水をかける、塩をまく。
また、これらの行為によって怪我をした場合(精神的ストレスによるPTSDなどの診断書がある場合も含む)は、より重い傷害罪となります。
(4) 脅迫罪(刑法222条)
生命、身体、自由、名誉または財産に対し、害を加える旨を告知して人を脅す行為です。
- 「殺すぞ」「家に火をつけるぞ」などの発言。
- 「夜道に気をつけろ」といった間接的な言い回しでも、状況によっては成立します。
(5) 迷惑防止条例違反・軽犯罪法違反
各都道府県の迷惑防止条例や軽犯罪法では、より軽微な、しかし迷惑な行為を規制しています。
- 覗き見行為。
- うろつき行為。
- 理由なく他人の家屋に石を投げるなどの行為。
これらも警察の取り締まり対象です。
「民事不介入」の原則とその限界
警察に相談する際、壁となるのが「民事不介入の原則」です。これは、警察権力が個人の私的な法律関係(民事紛争)に過剰に干渉すべきではないという考え方です。
警察が介入できない(しにくい)例
- 騒音トラブルそのもの
単なる生活音(足音、話し声)については、故意に相手を攻撃する意図が立証できない限り、犯罪とはなりにくく、警察は「注意」にとどまることが多いです。 - 境界線トラブル
「ブロック塀が境界を越えている」といった争いは、民事上の所有権の争いであり、警察はどちらが正しいか判断できません。 - 管理費・家賃の滞納
契約不履行の問題であり、完全な民事事件です。
しかし、現在は「安全最優先」へ
かつては民事不介入を理由に警察が相談を断り、その結果、殺人事件などの重大な結果を招いたストーカー事案(桶川ストーカー殺人事件など)の教訓から、警察の対応方針は大きく変化しています。
たとえ発端が近隣トラブル(民事)であっても、その背後に「このまま放置すれば身体や生命に危険が及ぶ可能性がある」と判断される場合は、警察は積極的に介入する傾向にあります。
「#9110」に相談する際は、「騒音がうるさい」という迷惑行為の側面だけでなく、「怒鳴り込んできてドアを蹴るので怖い」「待ち伏せされていて身の危険を感じる」といった、犯罪の構成要件や危険性に焦点を当てて説明することが、警察に動いてもらうためのポイントです。
相談記録と証拠の重要性
「#9110」への相談や、交番・警察署への相談において重要なのは、「記録化」です。
警察に相談したという事実は、相談受付票や相談記録として警察内部に残ります。これが積み重なることで、相手方の行為が常習的で悪質であるという証明になります。
また、ご自身でも以下の証拠を集めておくことが不可欠です。
- 被害日記: いつ、どこで、誰に、何をされたかを詳細に記録する。
- 録音・録画: 暴言、騒音、不法侵入の様子をスマートフォンや防犯カメラで記録する。
- 写真: 壊された物、落書き、怪我の状況を撮影する。
- 診断書: 体調を崩したり怪我をしたりした場合は、医師の診断書を取得する。
これらの証拠があることで、警察は「民事トラブル」ではなく「刑事事件」としての端緒(手がかり)を掴むことができ、警告、パトロールの強化、場合によっては被害届の受理や逮捕といった具体的なアクションを取りやすくなります。
不動産トラブルを弁護士に相談するメリット
警察は「犯人の処罰」や「犯罪の抑止」を目的として動きますが、被害者の「損害の回復」や「生活環境の改善」までは責任を持ってくれません。ここで、弁護士に相談する大きなメリットが生まれます。
警察が動けない「民事」部分を解決できる
警察は相手を逮捕することはできても、「慰謝料を支払え」「引っ越し費用を出せ」「今後一切関わるな」といった命令を出すことはできません。弁護士であれば、内容証明郵便の送付や示談交渉、民事訴訟を通じて、損害賠償請求や差止請求(迷惑行為をやめさせる請求)を行うことができます。
警察を動かすためのサポート(告訴状の作成)
警察が「民事不介入」を理由に被害届を受理したがらない場合でも、弁護士が法的な構成要件を整理し、証拠を揃えて「告訴状」を作成・提出することで、警察に捜査義務を生じさせることができます。弁護士が代理人として警察と協議することで、事案の深刻さが伝わりやすくなり、警察の対応が変わるケースも多々あります。
相手方との直接交渉を任せられる
近隣トラブルにおいて、当事者同士での話し合いは感情的になりやすく、さらなるトラブルや暴力沙汰に発展するリスクがあります。弁護士を代理人に立てることで、相手方と直接顔を合わせることなく、法的な観点から冷静に交渉を進めることができます。これは精神的な負担を大きく軽減します。
根本的な解決(退去・立ち退き)を目指せる
賃貸物件でのトラブルの場合、大家や管理会社に対して、迷惑行為を行う入居者への契約解除や退去を求める交渉も、弁護士であれば法的根拠に基づいて行うことが可能です。
まとめ
近隣トラブルや不動産にまつわる嫌がらせで身の危険や不安を感じた場合、まずは一人で悩まずに警察相談専用電話「#9110」を活用してください。これは、重大な事件を未然に防ぐための有効な手段です。
しかし、警察の対応には「民事不介入」という限界があり、損害賠償や抜本的な生活環境の改善まではカバーしきれないことが多いのが現実です。
「警察に相談したけれど解決しなかった」「相手に損害賠償を請求したい」「警察に動いてもらうために法的なサポートが欲しい」とお考えの方は、不動産トラブルに精通した弁護士にご相談ください。
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