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生前の相続対策、遺言書と生前贈与のメリット・デメリットを比較解説

はじめに

「自分が亡くなった後、残された家族が不動産をめぐって争うことだけは避けたい」
「特定の子供に、事業で使っているこの土地を確実に引き継がせたい」

ご自身が元気なうちに、将来の相続に関する準備をしておく「生前対策」への関心が高まっています。特に、分割が難しく、争いの原因になりやすい不動産については、事前に方針を整理しておくことが有用です。

生前対策の代表的な方法として、「遺言書」と「生前贈与」という2つの制度があります。どちらも財産を特定の誰かに引き継がせるという目的は共通しますが、効力が発生する時期、税金、手続き、撤回のしやすさなどが異なります。ご自身の希望や財産の状況に合わせて検討しなければ、かえって将来のトラブルを招くことがあります。

この記事では、将来の相続に備えたいとお考えの皆様のために、「遺言書」と「生前贈与」それぞれのメリット・デメリットを比較し、どちらを選ぶべきかの判断のポイントを、弁護士法人長瀬総合法律事務所が解説します。

Q&A

Q1. 「遺言書」と「生前贈与」、どちらが一般的な不動産の生前対策ですか?

一概には言えませんが、亡くなるまで不動産の管理・処分権をご自身の手元に残しておきたい場合には、「遺言書」が適していることが多いです。特に、公証役場で作成する「公正証書遺言」は、方式不備による無効リスクや紛失・改ざんのリスクを抑えやすく、家庭裁判所の検認も不要であるため、有力な選択肢となります。

Q2. 生前贈与で、子供に不動産の名義を移す場合の最も大きな注意点は何ですか?

大きな注意点は「税金」と「撤回のしにくさ」です。生前贈与では、贈与税が課される場合があるほか、不動産取得税や登録免許税の負担も問題になります。相続時精算課税、配偶者控除、小規模宅地等の特例など、相続・贈与には複数の制度が関係するため、税理士とも連携して検討することが必要です。

Q3. 遺言書を書いておけば、完全にその通りに遺産を分けられますか?

遺言書は強い意思表示ですが、万能ではありません。法律では、配偶者や子など、一定の相続人に最低限の取得分を保障する「遺留分(いりゅうぶん)」という制度が定められています。例えば、特定の第三者に全財産を譲る遺言をしても、配偶者や子は、遺留分を侵害されたとして金銭の支払いを請求できる場合があります。遺留分に配慮した遺言書を作成することが、後の紛争予防につながります。

解説

「遺言書」と「生前贈与」、それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。

1.遺言書による生前対策

遺言書は、ご自身の死後に、誰に、どの財産を、どのように相続させるかを指定する意思表示です。

メリット

  • 死亡時まで財産の所有権・管理権を手元に残せる: ご自身の生活状況の変化に応じて、不動産を売却したり、担保に入れたりする余地を残せます。
  • ご自身の意思を明確に示せる: 法定相続分とは異なる割合で財産を分配したり、特定の相続人に特定の財産(例:長男に実家)を集中させたりできます。
  • 何度でも書き直しが可能: 気持ちや状況が変われば、新しい遺言書を作成し、内容を変更することができます。ただし、後の遺言が前の遺言と抵触する部分について前の遺言が撤回されたものと扱われるため、複数の遺言が残らないよう整理しておくことが重要です。
  • 不動産取得税がかからない: 相続によって不動産を取得した場合、不動産取得税は課税されません。

デメリット

  • 効力が発生するのは死亡後: 生きている間は、財産の承継は行われません。
  • 遺留分を侵害する可能性がある: 他の相続人の遺留分を無視した内容の遺言は、後の紛争(遺留分侵害額請求)の原因となります。
  • 形式の不備による無効リスク: 特に自筆証書遺言の場合、法律で定められた方式(日付、署名、押印など)を欠くと、遺言が無効となるおそれがあります。自筆証書遺言書保管制度を利用した場合でも、遺言内容の有効性が保証されるわけではありません。

【ポイント】確実性を高めるなら「公正証書遺言」も検討

公証役場で公証人と証人2名の立会いのもと作成する「公正証書遺言」は、方式不備による無効リスクを抑えやすく、原本が公証役場に保管されるため紛失や改ざんのリスクも低くなります。また、相続開始後の家庭裁判所での「検認」手続きが不要であるため、相続人の負担を軽減できます。

2.生前贈与による生前対策

生前贈与は、ご自身が生きているうちに、特定の相手に無償で財産を譲り渡す契約です。

メリット

  • 財産を生前に移転できる: 贈与契約を結び、必要な登記を行うことで、贈与を受けた人が不動産の権利を取得します。ただし、贈与の時期・相手方・目的によっては、遺留分算定の対象となる場合や、特別受益として問題になる場合があります。
  • ご自身の目で承継を見届けられる: 財産を渡した相手が喜ぶ姿を、ご自身の目で見届けられるという精神的な満足感があります。

デメリット

  • 贈与後は財産のコントロール権を失う: これが大きなデメリットです。一度贈与してしまえば、後で生活状況が変わっても、「返してほしい」と要求することは原則としてできません。
  • 税負担が重くなる可能性がある: 贈与税のほか、不動産取得税や、相続時よりも高い登録免許税が必要となる場合があります。もっとも、税制上の特例が使える場合もあるため、個別の試算が必要です。
  • 他の相続人の不満を招きやすい: 特定の相続人にだけ生前贈与を行うと、他の相続人から「不公平だ」という不満が生じ、後の相続(残りの財産の分割)で紛争になる可能性があります。 

3.どちらを選ぶべきか?ケース別判断のポイント

比較項目 遺言書 生前贈与
効力発生時期 死亡時 契約・登記時(生前)
財産の所有権 死亡まで自分 贈与後は相手
主な税金 相続税 贈与税、不動産取得税、登録免許税
確実性 遺留分の制約あり 贈与時に移転できるが、遺留分・税務等の検討が必要
柔軟性 何度でも変更可能 一度贈与すると撤回困難

「遺言書」が適しているケース

  • 亡くなるまで自分で不動産を管理・活用したい方。
  • 将来、気持ちが変わる可能性がある方。
  • 相続人全体のバランスを考えた分配をしたい方。

「生前贈与」が適しているケース

  • 相続税対策として、暦年贈与(年間110万円の基礎控除)などを計画的に活用したい方。ただし、令和6年1月1日以後の贈与については相続開始前の加算期間が段階的に7年へ延長されるため、税務上の確認が必要です。
  • 「この財産だけは、今のうちにこの子に渡しておきたい」という意思がある方。ただし、税負担、遺留分、贈与後の生活資金への影響を事前に確認する必要があります。

弁護士に相談するメリット

  1. 最適な対策のプランニング: 家族構成、財産状況、ご意向を丁寧に確認し、遺言、生前贈与、家族信託などの制度を含めて、生前対策の組み合わせを検討します。
  2. 法的に有効な遺言書の作成支援: 遺留分にも配慮し、将来の紛争をできるだけ防ぐため、遺言書の文案検討や公正証書遺言の作成手続をサポートします。
  3. 税務リスクの検討: 生前贈与に伴う税務上のリスクについて、必要に応じて税理士と連携し、税負担を考慮した上での対応を検討します。

まとめ

不動産の生前対策は、「遺言書」と「生前贈与」の特性を正しく理解し、ご自身の目的と状況に合わせて使い分けることが肝心です。多くの場合、生活の安定と柔軟性を確保しやすい「遺言書(特に公正証書遺言)」が、不動産の生前対策の基本的な選択肢となります。

安易な生前贈与は、税負担や、ご自身の生活基盤への影響を伴うことがあります。どのような対策が適切か判断に迷われる場合には、弁護士・税理士などの専門家に相談し、法務面と税務面の双方から検討することをお勧めします。弁護士法人長瀬総合法律事務所では、ご事情に応じた対応方針をご提案します。


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この記事を書いた人

⻑瀬 佑志

⻑瀬 佑志

弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。約150社の企業と顧問契約を締結し、労務管理、債権管理、情報管理、会社管理等、企業法務案件を扱っている。著書『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)、『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践しているビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)ほか。

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